オンディーナの花冠
神に祝福されしは水精の復讐。
赤い月
見上げた空が、あの時と、あの時と、同じだったから。
どこか遠くで、硝子が砕け散る音が聞こえた。――気がした。
耳元で早鐘を打つ心臓が煩くて、気にする余裕など無いけれど。
「かは……ッ」
引き攣るような痛みを感じて、思わず胸元を掻き毟る。
力が入らない。平行感覚を失った身体は、容易く地に頽れる。
荒げた息を繰り返しながら、今日という日を忘れていた自分を悔いた。
(そうだ。今日は“あの日”だからと、聞いてたはずなのに……!)
あの日。今夜は、月が染まる日。
それを、その月を見てはいけないのに。
冷たい雨の音が消えた空を、ふと見上げた先には、赤い赤い――。
「……っ!!」
ずきりと胸元の傷が疼く。
傷口から血が流れ出しているのか、目が眩むほどに熱い。
(違う……。ここにあるのは傷痕だけ。もう血は流れてない)
必死に自分を落ち着かそうと息を吐いて、右手を彷徨わせた。
常備している小箱。あの中身を飲めば、痛みは和らぐから。
救いを求めた手は、えてして鋭い痛みに見舞われた。
手を伸ばした先、すぐ側に、儚く散った硝子の破片。
思わず引っ込めた手に一筋流れたのは、今宵の月のように赤い、赤い――。
「あ、あぁああぁ……!!」
見開いた目が映すのは、赤い月の下での光景。
炎の渦に包まれた教会。
反抗も虚しく惨殺された父と兄。
自分を庇った末に血に塗れた母、姉。
焦点がブレるように歪んだ先に、赤く染まって逝くのは愛しい人。
そして、その姿の後ろには。
三日月の如くしなった、返り血に濡れた女の、嗤い顔が、
思い出される記憶。血に染められた月の記憶。
目の前で喪われていくのは大切な人の命。
視界はどこまでも赤く、赤く――。
耐えきれない意識は、途切れて闇に沈んでいった。
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プロフィール
HN:
ルピア・アルカンシェル
HP:
性別:
非公開
職業:
剣を振るう魔曲使い
自己紹介:
自己救済の為に生きる復讐鬼。
天使信仰の教会出身。
残念ながらシスコンでした。
******************************
この作品は、トミーウォーカーの
運営する『エンドブレイカー!』の
世界観を元に作成されたものです。
イラストの使用権はルピアに、
著作権は各絵師様に、
全ての権利はトミーウォーカーが
所有します。
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残念ながらシスコンでした。
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